2007-03-28

2006-03-24(金) T病院へ行くが

 いつもより早く目覚めてしまう。定刻まで待って母と朝食を済ませた後、車を運転して病院へ行こうとしたら、母が非常に心配してタクシーを使う様に強く勧めるのでタクシーで行く事にした。病名がはっきりしていないが極度の貧血(anemia)には変わりないのだから用心した方が良い、との事だった。なるほど。

 『T病院』に到着、待つ事しばし。K先生の診察を受けるべく診察室に入った。とにかくすぐに息が切れてしまい心臓がドクドクと頻脈(tachycardia;pulsus frequens)になってしまうので早く輸血(blood transfusion)か何かをして欲しかった。先生は紹介状と22日の血液の結果を見て私に少々問診等をされたが、一向に何か検査をする気配も無い。ただ白血病(leukemia;leukaemia)であるという事だけは一致しており、どんな質問をしてみても揺るぎは無かった。詳しい検査をして白血病の種類を調べる必要があるといわれたが、この病院では検査は出来るが白血病の人を入院させる設備(無菌室clean room)が無いので、よその病院へ行って治療する事になるだろうが、治療は長期にわたるだろうと話された。せめて輸血だけでも今して貰えないのかと尋ねると輸血には入院(hospitalization)が必要になるという。輸血によってショック症状を起こす人もいるので、入院して貰って輸血後のアフターケアをしっかりしなければならないそうだ。そして今から入院しますかと聞かれたのだが、いくらなんでも今すぐ入院というのは何の用意もしていなかったのでためらわれた。鉄分なり造血剤(blood-forming medicine;hematic;hematinic)なり貧血が改善する薬か何かないか、何か処方して貰えないかと聞いてみたが、輸血しか方法が無いらしかった。そこで、貧血でフラフラになってもいいからと覚悟して、来週の月曜日に精密検査を兼ね入院し、輸血して貰う事にして書類を受け取り、病院を後にした。

 このT病院のK先生というのは、かつて父が脳梗塞で入院した時の主治医で、後に母が脳梗塞で入院した時にもお世話になった先生である。この病院もこの先生も決して悪い病院・先生ではない、とってもいい病院でいい先生なのだが、うちの家族にとってはあまり良い印象を持っていない。
父は治療に納得出来ずすぐに退院した。母の時は処方された脳梗塞の薬のせいで急性肝炎(acute hepatitis)になっていたのに病院側は見逃して退院させた。退院後の母の体調がおかしいのに気付き、一週間で病院へ逆戻り。今度は急性肝炎で再入院した為、母は絶対安静を余儀なくされ、脳梗塞後遺症のリハビリ開始の一番いいタイミングを逸してしまったという経緯があった。明らかに薬害(drug induced suffering)であった(その1~2年後に死者も出して初めてニュースにもなった薬と同じ薬だった)のにそれに対して病院側はうやむやな態度を取り、人によっては副作用(side effect)で肝炎になることもあると説明しただけでなんの侘びも無かったのが印象的であった。そして病院側へ何のクレームも付けずに黙って退院した母(※)が、この病院内のリハビリ施設(institution for rehabilitation)でリハビリをお願いしたいと頼んだ時もやんわりと断られた。それやこれやを見てきているので、自分もこの病院へ入院するのはなんだか嫌だった。また面白い事にK先生側からも、よその病院へ行って欲しいというオーラーが感じられるのであった。気のせいだろうか?

 輸血してもらってくる、と言った割りに意外と早い帰宅に驚いている母に事の経緯を話すと、母は「あそこに入院しなくて良かった」といった返答をした。やはり母もこのT病院には思う所が一杯あるのだろう。私も「来週入院といっても検査だけだし、本格的治療はT病院では設備が無くて出来ないといっているから、よその病院でする事になるから安心して」と母に言った。

 問題は、元科学者で医学の知識も豊富な母に病名を何と告げるかであった。多発性脳梗塞と診断され、小さな梗塞(cerebral infarction)を少しずつ起こしているらしく徐々に運動機能が奪われ、体が弱っていく母にいきなりショックを与えて梗塞を起こしてもらいたくなかった。ワンクッションおいて知らせた方が良いのではないかと思った。
 また、母は病に倒れて以来、気丈に極力自分で出来る事は自分でと頑張ってきた。三姉妹の末娘である私は、母を出来るだけ手伝い、介護補助や母のして欲しいこと等、娘の私に出来る事をして支えてきた。姉たちも時々来てくれるが、恒常的にいる私が入院となると、やはり母の為に早急に何か手を打たねばならなかった。
 しかし、誰に相談したらよいか迷った。三人姉妹のうち長姉は関東在住だが子供も大きくなっており、いざ入院という事になった時に応援に来てもらえる可能性があったが、あいにく海外出張中で帰国予定日は土曜日だった。次姉は隣県在住でまだ小学生の子供がいるので時間的余裕がつきにくいと考えられた。

 母の古くからの友人でお医者さんのM先生に連絡を取ってみた。M先生は、母は聡明な人だからストレートに言うべきではないかと言われたが、私は非常に迷っていた。M先生に数日おいてから真の病名を知らせるつもりだが、ワンクッションおくとして、例えば慢性白血病(chronic leukemia;CL)というのと、再生不良性貧血(hypoplastic anemia)というのと、病名としてはどちらの方が聞かされた時のショックが少ない可能性が高いか聞いてみた。重篤な病気という点で変わりはないという先生に、敢えてどちらかを選ぶとしたら無理にお願いしたら、今回の場合を考えると再生不良性貧血かもしれない、との事だった。

 夕食後二人でお酒を飲んでいる時、母に実は再生不良性貧血だと言われたと伝えてみた。母はある程度覚悟をしていたらしく、この話を聞いた時「白血病でなくて良かった、安心した。」とホッとした口調で話すので、取り敢えずこれでワンクッションはおけたと思う一方で、内心、やはり白血病という病気は大変な病気なんだ(違いは良く分からないがイメージとしてはそうなのだろう)と実感させられる瞬間にもなってしまった。とにかく明日帰国するという長姉に何とか連絡を取りたいと思った。

※ (本文注:)ちなみに母がこの時、(全国的に処方されていたらしい、この)脳梗塞治療薬についてクレームを出したら明らかに新聞沙汰のニュースになったのは確実だったと後に母は話している。訴えなかったのは、姑も夫も自分もお世話になった病院に対して、事を荒立てたくなかったという。K先生も、医学知識が半端でなく豊富な母に対して、急性肝炎で再入院した後は訴えられないか非常に恐れていたのではないかとも母は推察していた。しかし、後にこの同じ薬で死者も出たというニュースを見た時、母はやはりあの時毅然と訴えていたら、こんなに死者が出ないうちにあの薬は使用中止になったかもしれないと考えると複雑な心境だ、と少々悔やみ、亡くなられた人のご冥福を祈っていた。

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