2008-08-31

補足:IVHカテーテルとCVカテーテルの違い

 先日、『IVHカテーテル(CVカテーテル)挿入法について』(「生亜紫路」版)、『IVHカテーテル(CVカテーテル)挿入法について』(「生亜紫路2006」版)について書いたが、その補足事項を以下にまとめておく。

 中心静脈に挿入するカテーテルについて調べると、IVHとCVという2つの言葉がよく出てくると思う。この2つは違うものなのだろうか、それとも同じ事なのだろうか? 入院当初は私もよく分からなかった。

 IVHとは医学用語のintravenous hyperalimentationの略で、訳すと、「中心静脈高カロリー輸液(法)」となる。一方で、CVとはcentral venousの略で、「中心静脈」と訳す事が出来る。ちなみに central venous nutritionとするとこちらも、「中心静脈高カロリー輸液(法)」という意味になる。

 このintravenous hyperalimentation(IVH)、或いはcentral venous nutrition(CV高カロリー輸液法)の意味は、口から栄養がしっかりと採れなくなった患者さんに、心臓近くの大静脈(主として上大静脈)内にカテーテル(管:catheter)を挿入して、直接栄養になる液を血中に点滴で体内に入れる方法の事で、非経口栄養の一つである(非経口栄養には、この他に鼻孔等から管を直接胃・小腸等へ挿入する方法もある)。その為、中心静脈へ挿入するカテーテルの事を、IVHカテーテルとかCVカテーテルと呼んでいる。ちなみに、hyperalimentationには「(点滴等による)過栄養」という意味、nutritionには「栄養物摂取、食物、(栄養作用)」等の意味がある。

 IVHには、上記の様な意味がある為、私の様に、抗癌剤(anti-tumor agent)を点滴する為に挿入されたカテーテルの事を指すのならば、IVHとか、IVHカテーテルと表現するのではなく、CVカテーテルと表現するべきで、その方がより正確だと書いたページを読んだ記憶もある。それを考慮するのなら、「H」を抜いて「IV」とすれば同じ様な気がする所だが、「IV」だけならば「intravenous」の略になってしまうから、単に「静脈(内)の」とか「静脈注射の」という意味になり、静脈ならどこでもいい感じになり、ここで言う「CV」(central venous:中心静脈)の意味合いが無くなってしまう。

 では、この中心静脈に直接栄養液や抗癌剤を点滴するというのには、どういう意味があるのかというと、色々辞書を読んでみて考えるに、次の様になる。まず、中心静脈とは心臓から一番近くて太い静脈で、上大静脈(superior vena cava)や下大静脈(inferior vena cava)を指している様だ。上大静脈は上半身をめぐる静脈の最終合流地点で、CVカテーテル挿入候補の内頚静脈(内頸静脈:internal jugular vein)も鎖骨下静脈(subclavian vein)も、腕の色んな場所にある静脈も、合流しながら、最後にはこの一本の太い上大静脈に合流して、心臓(右心房)に流れ込む。下大静脈は下半身からの静脈の最終合流地点と考えれば良いかと思うが、脚の色んな静脈や大腿静脈(femoral vein;venae femoralis)も、最後にはこの一本の太い下大静脈に合流して、これも心臓(右心房)に流れ込む様になっている。つまり、これら中心静脈の部分では、体中からの、大量の静脈血が流れ込んでいる事になる。

 臨時的に、腕とかの末梢静脈に針を刺した状態(カテーテル挿入ではない)で、点滴を行なう事もあるが、特に抗癌剤等は成分がきついので、点滴部位の血管壁にも負担がかかるそうである(末梢静脈だから、当然血管自体も細い)。そこで長期的に行なう場合は、心臓近くの中心静脈までカテーテルを挿入して、そこに直接点滴液が到達する様にする。そうすると、そこでは血量が多い為、静脈血によって点滴液が即、大量希釈されるので、血管に負担をかける事なく、持続的に点滴が可能となる様だ。それに心臓なのだから全身にも効率よく、栄養剤や薬剤が巡りそうな気もする。

 ここまで書いてきて思ったのだが、いくら大量希釈されるとはいえ、この静脈血は右心房(right atrium)→右心室(right ventricle)を経て、最初に肺(lung)に行く。そこで酸素を貰って鮮血の動脈血になり、左心房(left atrium)→左心室(left ventricle)から上行大動脈(ascending aorta)へ送られ、全身に流れる事になるので、抗癌剤なら、なんだか、肺に負担がかかりそうな気もするのだが、どうなのだろうか?

 さて、病院内で、先生やナース、患者間で、どの表現をしていたかを思い出すと、やはり人それぞれの、ごちゃ混ぜで、IVHと言う人もいれば、CVと言う人もおり、それらが同じ事を指しているという事に慣れる迄は、やはり「何かまた新しい言葉が出てきた」とか「違うものに変えるのだろうか」とか考えてしまい、理解する迄に(ある意味、安心する迄に)かなり混乱した覚えがある。

 結論を言うと、厳密に使い分けている所(病院や医師)もあるかもしれないが、IVHとCV、或いはIVHカテーテルとCVカテーテル等といった言い方は、同じ意味で使われている事が多いと考えていいのではないかと思う。

2008-08-18

『ルンバール(Lumbal)はどこに刺すのか』

 今回は、入院しなければ決して体験する事が無かったであろう、ルンバール(Lumbal:腰椎穿刺)について、少し纏めてみる事にした。素人が自分なりに解釈して書くので、勘違いしている所もあるかもしれないので、もし間違いがあれば、教えて頂ければありがたい。

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 ルンバールを日本語で腰椎穿刺というのだが、英語ではSpinal tapとかLumbar punctureという。ルンバールとはドイツ語でLumbalpunktionという所の前半(Lumbal;『腰部の』という意味) 部分が検査の通称名になっている。後半のPunktion(プンクツィオーンと発音する)は『穿刺』という意味である。

 ルンバールは、検査に使われるほか、薬剤を直接注入する等の治療にも用いられる手法である。自分の場合、急性リンパ性白血病(acute lymphocytic leukemia;ALL)の治療(化学療法;chemotherapy)の一環として、通常の血流からの点滴だけでは届き難い脳にまで抗癌剤(anti-tumor agent)を行き渡らせる為にと、脳脊髄液(cerebrospinal fluid;CSF;liquor cerebrospinalis、この液中に脳が浮かんでいる)に、ルンバールで抗癌剤を直接注入されていた。脳脊髄液(CSF)に直接薬剤を注入する事からか、ナースはルンバールの事を髄注(intrathecal injection)とも呼んでいた。

 緊急入院でわけも分からないうちに治療が開始され、ナースや先生達から「ルンバール」だとか「腰椎穿刺」をするだとか、はたまた「髄注」だと言われても、ただただ混乱するだけで、一体どういう治療法なのか、不安で、何度も何度も、ナースや先生に訊いていた覚えがある。自分の感想としては、少なくとも最初の治療の時くらいは、患者にはまだしも一番分かり易い(イメージし易い)と思われる『腰椎穿刺』という言葉に統一して使って欲しいものである。

 検査のルンバールで何が分かるのかというと、例えば、クモ膜下出血(subarachnoid hemorrhage)等が起こった時は、正常なら無色透明である脳脊髄液(cerebrospinal fluid;CSF)に血が混じるそうである。また、私の様に急性リンパ性白血病等の場合、悪性細胞が混じっていないかを検査するそうだ。検査方法は、先ずは目視で、採取した脳脊髄液が透明か否かを見、次に顕微鏡的に調べて出血や悪い細胞の有無を検査する様だが、先生は、私の状態から、入院して最初のルンバール時は、もしかして濁っているのではないだろうかと心配されていたという。私は幸いにも、目視でも、その後の検査でも、悪い細胞は検出されなかったが、ひどい場合は、無色透明である筈の脳脊髄液(CSF)が、向こうが見えない位に濁っている時もあるという(つまり悪い細胞が混じっているという事)。そして私の場合、治療の為のルンバールでもあるので、注入する抗癌剤の分だけ、先ず検査用に脳脊髄液(CSF)を採り、次に抗癌剤を注入するという手順が取られていた。

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 さて、このルンバールとは一体どうやるものなのだろうか? 入院してルンバールをされると分かり、どういうものなのかの説明を受けても、大切な神経等が走っている背骨の中に注射針を突っ込んで大丈夫なのだろうか? 神経(nerve)を傷つけたりする心配はないのだろうか? と不安は付きまとった。結果から言うと、こちらもIVHカテーテル(intravenous hyperalimentation catheter;中心静脈カテーテル)挿入と同様、解剖学的所見や触診(palpation)を頼りに、穿刺(paracentesis;puncture)していくらしい(ブログ内参照:『IVHカテーテル(CVカテーテル)挿入法について』(「生亜紫路」版アドレス)・『2006』版のアドレスは⇒『IVHカテーテル(CVカテーテル)挿入法について』)。そして穿刺する部位の腰椎では、たとえ神経に針が当たっても、傷つける事は余りないらしく、足がビリっとくる等の瞬時の症状があるそうで、先生から「もし足等ビリっと来たら、すぐに言って下さいね」と、ルンバール時に声かけられていたのを思い出す。その時点では、脚の神経に針が触れる事があるらしいという所まで、なんとか理解していたと思う。

 では、このルンバールは、正確にはどこに刺しているのであろうか? 入院中に先生から口頭で説明を受け、だいたいイメージは出来てはいたが、はっきりと理解していた訳ではなかった。ルンバールを理解する為に調べた内容を、写真や図を載せられないので、言葉でまとめていこうと思うが、読者は文章のイメージを、自分で簡単な絵にして描いてみたら、より分かり易いかもしれない。

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 調べた結果、ルンバール針は腰椎槽(Lumbar cistern)という所を目指して刺しているが、これは、どこら辺にあるのか、解剖学(anatomy)的に見ていくと次の様になる。

 まず、頭蓋骨とそれに続く背骨があるが、ここは、中枢神経系(central nervous system)である大切な脳(brain)と脊髄(spinal cord)等を入れて、衝撃等から保護している、いわば入れ物の様なものである。頭蓋骨に続く、入れ物である背骨は、上から順に7つの頸椎(cervical)・12の胸椎(thoracic)・5つの腰椎(lumbar)・仙骨(sacrum)(5個の仙椎が融合して一つの仙骨となっている、おしりの辺りにある骨)・尾骨(coccyx)(2~4個の尾椎が融合して出来た骨)で出来ているが、背骨(椎骨)の内腔(椎孔:vertebral foramen)は、第2仙椎付近(臀部の辺り)で終わっている。これら骨の内腔のすぐ内側には、硬膜(dura mater)・クモ膜(arachnoid;arachnoidea)という2重膜に覆われ、全体で一つの袋みたいになっている。この膜の中に脳脊髄液(CSF)が満たされており、脳と脊髄は軟膜(pia mater)という膜につつまれた状態で、この液の中に浮いていると想像してほしい。例えば脳でクモ膜下出血が起こると、その血液が、透明な脳脊髄液に混じるので、ルンバールで腰から採取した脳脊髄液を見ても分かる、という事になる。硬膜・クモ膜内の脳脊髄液(CSF)は一定の水圧を保っていて、中に浮いている脳と脊髄を保護する役割もしている。

 脳に続く脊髄は一本の太い神経の塊で、中枢神経系の脊髄からは31対の末梢神経(peripheral nerve、脊髄神経:spinal nerve)が分岐して、体中に伸びている。この脊髄は、背骨の内側スペース(内腔;脊柱管:spinal canal)にほぼきっちりと通っていて、第2腰椎付近で脊髄円錐という形で終わっている(急に細くなっている)。そしてこの第2腰椎付近から第2仙椎の所迄を腰椎槽(Lumbar cistern)といい、背骨内腔の空間もここで終わっている。

 つまりルンバール(腰椎穿刺)は、脊髄を刺す(傷つける)恐れの少ない、この腰椎槽を目指して針を刺しているのである。ちなみにこの腰椎槽の中には、脊髄から出ている数多くの馬尾神経(cauda equina)等が、ほうきの形(馬の尻尾の形)の様になって入っている。また、腰椎より下に伸びている神経は、腰から下肢に関する神経を支配している。この為、もしルンバール針が神経を触ってしまった場合、「脚がビリっとする事がある」という事が理解出来る。

 腰椎槽とはいえ、無数の神経が通っているのに、針で神経を傷つけたりしないのかと思うのだが、穿刺する針が腰椎槽へ挿入されても、たいていは、神経線維は脳脊髄液中で、するりと針先をよけてくれるのだそうだ(私は、そうめんの中に爪楊枝を突き刺してみても、液中でそうめんを突き刺す事は難しいだろう、というイメージをして、先生の説明を理解していた)。患者は自分の身を守る為にも、ルンバール中に、下半身のどこかに何か異変を感じたら、我慢せず、すぐに先生に言うべきである(と私は思う)。穿刺位置が間違っている、深く刺し過ぎてしまっている等、何かおかしい可能性があるからである。

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 次に、ルンバールとはどの様にするものなのか、その概略を、患者としての実体験した感想を含めて、まとめてみたいと思う。

 私が入院した病院では、ルンバール後に頭を持ち上げる事なくそのまま安静にする為にと、病室の患者のベッド上で行われていた(大部屋なら、各個人のベッドまわりのカーテンをしきっただけの状態でである)。患者は、パジャマなら上下を少しずつずらして腰を出し、横向きに寝、膝を抱え込む様にして、背中を丸くした状態で、処置を受ける。これは、体を丸くする事によって、出来るだけ背中側の腰椎間の隙間を広げ、ルンバール針を背骨(腰椎)と背骨(腰椎)の間に挿入し易くする為である。処置される時、横向きに寝、両膝を両腕で抱え込むという、非常に不自然な体勢を取っているが、先生は確実に針を挿入出来る様にという意図からか、更に「出来るだけ丸まって、もっと丸くなって」と声を掛けられた時もある。ルンバール針が正しく挿される迄、そんなに長くはかからない筈だが、この体勢を維持しなければならないのが結構大変で、背中で行われている事への不安や緊張もあって、とても長く感じたものである。また、先生によって、やり易い(針を挿入し易い)患者の向きがあるらしく、大抵は左側を下に横になって丸まっていたが、左右どちら側を下にして寝てもいいですよ、という先生もおられた(この先生はルンバールに関してはとても慣れておられた)。

 準備が整えば(患者の腰に、丸い穴空きの処置用の清浄な布をかぶせ、穿刺部位中心に丸い穴がくる様に、穴周囲に付いている粘着部分をしっかりと患者の腰に貼り付け、穿刺部分だけが丸い穴から出ている状態になる)、穿刺する部分を念入りに消毒してから、穿刺部位を触診しながら局所麻酔(local anesthesia;regional anesthesia)をする(結構痛い。麻酔しないでルンバールをする先生もおられるそうだ)。穿刺部位は、第3・4腰椎間(L3/4)、第4・5腰椎間(L4/5)、第5腰椎と仙骨の間(L5/S1)の3か所が候補としてあるらしい。私の場合、ルンバールに関係あるかどうかは知らないが、椎間板ヘルニア(disk herniation)があり、それも不安だったので、あらかじめ、そこを避けて欲しいと、いつも先生にお願いしていた。先生もその部位は避けてしてくれた様に思うので、患者さんは、不安が少しでもあれば、一応なんでも先生に言ってみた方が良いと思う。

 麻酔が効いてきたら、触診のもと、腰椎槽へ向けて腰椎間から針を挿し、正しく挿入されていれば、針から脳脊髄液(CSF)が出てくるので、それを確認する。もちろん患者である私は背中で行われているので、見る事も確認する事も出来ないが、脳脊髄液(CSF)流出の確認が済めば、「体の力を抜いてもいいですよ」と先生から声掛けられていた(一応、横向きに丸まった姿勢は保ったままだが)。また、麻酔が効いている筈なのだが、針を刺される時はいつも嫌な重い痛みの様なものを感じた。ルンバール直前に、先生は、「麻酔は何度でも追加出来ますから、痛いなら言って下さい」と言われ、どうやら背中を針先でつついているらしかったが、その痛みは感じなかった事から考えると、麻酔は効いている筈なのだが、刺された皮膚ではなく、もっと奥の方の、深部で感じる、何とも嫌な、時には鈍い痛み(不快感)を感じたのを覚えている。

 少し重複するが、ルンバール針が神経にあたった時、下半身の脚とかがビリっとしたりするそうなので、患者は少しでも異常を感じれば、すぐにその事を先生に伝えた方が良いと思う。針が腰椎槽に達したと気が付かず深く刺してしまう事もあるというので……。

 採取した脳脊髄液(CSF)は検査に回され、抜いて減った分だけ抗癌剤を同じ針から注入する。(※検査のみのルンバールというのは経験しなかったので、検査のみの場合、CSFを抜いた後に代替の液を注入するのかどうかは知らない)。普通は注入される時、尾部にかけてもぞもぞとした感じを受ける(注入時のみの一時的なもの)そうだが、私は少々違った感覚があった。しかし私が先生に説明した様な感覚・反応をする患者さんを、先生はそれまでに見た事が無いと言って悩んでおられた(注入時の私の感想は、余り参考にならないと思われるので省略)。

 抗癌剤注入も無事終了すれば、針を抜いて、穿刺部位を大きな脱脂綿の塊り等で圧迫し、テープ等で止める。それが済めば、患者は頭を持ち上げない様にして、仰向けになり、枕をしないで水平に真っ直ぐ寝、そのまま1~2時間安静にすれば終了となる。これは、抗癌剤を脳にまで行き渡らせる為と説明されたが、腰椎穿刺後の頭痛(post-spinal tap syndrome;post-lumber puncture headache)予防の効果もあるのだとも言われた。

 ルンバールに使用される針には21~22G(針の直径が違う)を使う事が多いらしい。女性には細めの針の方が、腰椎後頭痛を防ぐのに有効かも、と主治医の先生が言っておられた。自分の場合、初回のルンバール後に頭痛が起こり、(塞がりきらなかったと思われる)穿刺時の針の穴から脳脊髄液(CSF)がじわじわと漏れる(脳脊髄圧が下がる)為に起こる穿刺後頭痛の可能性が疑われ、その後のルンバールでは、細い針にして貰い、注入する液の量も少し多めに調整して貰ってから、頭痛が解消したという経験をした。

 この腰椎後に起こった頭痛とは、大変ひどいもので、10分も体を起こした状態でいると、とにかく頭が痛く気分も悪くなり、目を開けて何か物を見るのも辛く、すぐに横になって寝ていた記憶がある。塞ぎきらなかった針穴から漏れる脳脊髄液(CSF)は非常に少ないだろうと思うのに、こんなにひどい頭痛が起こるのだから、きっと検査のみのルンバールでも、抜いた分だけ、代替の液を注入するのではないかと、私は考えている。

 過去の記録を見直すと、私の場合、22Gの針に変えて貰った様だが、初めに使われていたルンバール針の太さは何だったかは知らない。22Gよりも太い、21G以下である事は確かだろう(念の為に、この針の太さを表す数字は、大きい程、細い針である事を示している)。針が細くなる程、針の腰(強度というか、強さの事)が弱くなる為、極端に細いのを使うのは、穿刺するのに使い難いそうで、脳骨髄液(CSF)を採取する(出てくる)のにも時間がかかるのだとか。また、患者が高齢者だと、脊髄槽に達する迄の所が硬くなっていて、針を進めるのに力がいるというので、患者さんの性別や年齢、肥満の有無、或いは病院や先生によっても、選ばれる針の太さは違ってくるかもしれない。

 細い針にして貰ってから頭痛が治まったはよいが、ルンバールで脳骨髄液(CSF)採取に時間がかかり、より長い時間、丸まった姿勢で、腰に針を挿されたままじっとしていなければならなかった。しかし、頭痛が起こってしまった場合、次回のルンバールの治療まで、ずっと頭痛に苦しまなければならない事を思うと、なんとか我慢出来た(頭痛止めの薬は飲む回数に制限があるし、大して効かなかった。とにかく横になると頭痛も軽減するので、寝ているのが一番であった、というより、寝ている他に手立ては無かった様に思う)。

 余談になるが、左右どちらを下にして寝てもいいですよと言っていた、ルンバールに慣れておられた先生の時は、いつもの様に、キュウキュウに丸くなって緊張していると、「そんなに丸くならなくても大丈夫ですよ」と言われ、ルンバール時の体位の苦痛(横向きに寝て丸まっているので、体の下になっている腕も痛くなってくる)が軽減したし、針が細い為、時間がかかると思っていた脳骨髄液(CSF)採取の待ち時間も短く、嫌なルンバールがすぐに終わってしまったのに感激した事があった。経験数も多い筈の他の先生よりもうまかった位なので、先生にも得手・不得手があるのだという事を実感した瞬間でもあった。そして、それまでは、先生の指示通りに思いっきり丸くならないと、うまく液が出てこない(ルンバールが出来ない)と思っていたのに、そうでもないという事も、この時、実体験として知ったものである。

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 今回、ルンバールについて調べていた時、京都科学の『腰椎・硬膜外穿刺シミュレータ ルンバールくんII』というのがあるのを見つけた。これは、人体模型を用いたルンバールの練習セットである。ルンバール未経験の研修医で、もしこの様な模型を使える環境にあるならば、いきなり人体で(要するに患者の体で)、ルンバールの手技を行なうのではなく、こういった練習セットで繰り返し十分訓練してほしいと思う。

 それからもう一つルンバールの手技について詳しく書かれた記事を見つけた。『正しい腰椎穿刺のやり方を知っていますか?』というページであるが、これは医者である【イケダさん】という先生のHPの中にあった。これは、医者向けに書かれたものであるが、単に手技の説明だけでなく、患者の立場になっての心境の記載もあり、この部分には、「うん、うん、そうだ」と随分頷いてしまった。特に、背中で何が行われているか分からないという患者の不安を少しでも取り除く為に、施術者はそれを一つ一つ言葉をかけながら行なうべきだ、という所にはとても共感した。自分の場合も、ルンバール時に、ちゃんと細かく声掛けをして貰った先生の方が、ルンバール中も安心感が高かったからだ。私は長期入院だった為、都合、数人の先生(その殆んどが研修医)にルンバールをされたのだが、殆んど声掛けもしてくれず、もそもそとされる先生には、どこまで進んでいるのか、ちゃんとやれているのかと、要らぬ不安が増して、嫌なものであった。これは何もルンバールに限った事ではなく、マルク(Mark:骨髄穿刺;bone marrow puncture)も然り、色んな処置の場面で言える事ではないだろうか。お医者さんの卵である先生方(研修医)には、是非、この“声掛け”というものも実践して貰いたいと思う。
※ この『正しい腰椎穿刺のやり方を知っていますか?』という記事は、医者向けの専門的なものであるが、もし読まれるのならば、その中にある英語の専門用語の意味を、少しでも参考になればと思い、以下に書いておく。
・ post-spinal tap syndrome又はpost-lumber puncture headache(syndrome)とは、腰椎穿刺後の頭痛の事。
・ traumatic tapとは、トラウマチック・タップと読み、外傷性穿刺という訳が出来る。腰椎穿刺の際に、近くの血管に針が当たってしまい、髄液にそこからの血液が混入する事を言っている。そうなると、初めから髄液に血液が混じる血性髄液かどうかすぐには判断しかねるそうだ。

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 最後に、私の入院中の記録を書いた『生亜紫路2006』(現在一部更新休止中)の中にも、ルンバールに関する、その時々の記録・感想を書いているので、興味のある方は、ラベルの【ルンバール】(或いは左記のルンバールという青文字の所)をクリックしてみて下さい。また、退院後の体調など、現在の記録等はこれとは別の『生亜紫路』というブログにも書いているので、こちらもよろしければどうぞ、お立ち寄り下さい。何かの参考になれば幸いです。

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※ブログ内、関連記事:『2008/10/16 (木) 血液と骨髄液の違い

2008-08-06

IVHカテーテルの形状詳細

 前回、『IVHカテーテル(CVカテーテル)挿入法について』を書いたので、今回は、一部重複する所もあるが、自分の入院中に使用されていたIVHカテーテル(intravenous hyperalimentation catheter、中心静脈カテーテル)の形状について、自分なりに調べたり観察したりして詳しくまとめた結果を、写真を添えて残しておこうと思う。私の場合は、カテーテルを右鎖骨下静脈(subclavian vein)に挿入されていたので、おおむね、その前提でまとめる(※各写真をクリックすると少し大きな写真が見られる)。※今回の説明文は非常に長いので、もし闘病中の方なら、私自身入院中、文字を読むだけでも非常に体力を消耗してしまった経験があるので、斜め読み程度にして、どうぞ無理されます様に……

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 ここで紹介する写真のIVHカテーテルは、点滴する口が2つある、2叉に分かれたダブル・ルーメン(lumen)タイプである。形状から、アロー社製の中心静脈カテーテルと思われる。カテーテルは、この他に(アロウ社製のものでは)ルーメンが1つのもの、3つのもの、4つのものがある様だ。以下に説明する部分で、アロウ社での説明をもとに各部位の説明をするので、もしかしたら、製造元が違うと部位の名称(呼称)も少し違うかもしれない事にご注意願いたい。

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 まず、写真①で全体像を見ていこう。後半で個別に、もう少し詳しく説明をしていく。

・ 写真①左半分の2叉に分かれたものから白色カテーテルの、先端が青色で細くなっている部分(ブルーチップ)の所までがIVHカテーテルである(写真②)。
 
・ 写真①右半分に見える2つの透明な管(カテーテル)は、IVHカテーテルを実際に点滴に繋ぐ為の中継の管で、“延長カテーテル”とナースは呼んでいた。末端の水色の部分に、点滴の管を連結出来る様になっている(写真⑪、⑫)

・ 写真①左側に見える白色カテーテル(管)先端の、ブルーチップ(tip;先端)の所が、カテーテルの先端で、心臓の近くに留置されていた部分にあたる(写真③~⑥)。

・ 写真①左の白色カテーテルの途中に、青色のハネ(カテーテルクランプ)が付いているが(写真②、⑧)、これは、カテーテルが抜けない様に、皮膚に縫い付けて固定する部分である。つまりそこから先端までが体内に挿入されていた部分になる(写真⑦)。

・ これはダブル・ルーメンタイプなので、写真(①、②)では一見、2本のカテーテルが、一本の白色のカテーテルに合流している様に見えるが、実は、白色カテーテルの中では先端の方まで、2本の管に分かれており、血流に達する最後まで合流する事が無い様に作られている。そして白色カテーテル内の2本の管の直径(太さ)はそれぞれ違っている(これは入院中に先生に質問して教えて貰った事なので、実際にこの白色カテーテル部分の横断面を見て確かめてはいないのだが……)。同時に2種類以上点滴する場合等は、点滴の内容によって、直径の太い方を使うか、或いは細い方に点滴を繋ぐか、使い分けたりする。

・ 写真①の左中央に茶色のハネの部分(ジャンクションクランプ、写真⑦左下)があり、青色のカテーテルクランプと同様、穴が2つ空いているのが見えるが、私の場合(右鎖骨下静脈挿入)、皮膚に縫い止めたのは、ブルークランプの所のみであった。

・ 茶色のジャンクションクランプの所で、白色カテーテルは2本の透明な管(カテーテル)に分かれている。その先には茶色のハブ、又は白色のハブがあり、それぞれに延長カテーテル(写真①右半分に2つ見える)を繋いで、点滴ルートを2本確保している(写真①)。ハブ(hub)とは、管(カテーテル)と管(カテーテル)をつなぐ部分と考えたらよいだろう。

・ 写真①で、IVHカテーテルが延長カテーテルに連結している繋ぎ目、即ちハブが、写真①上の方が茶色(写真②上)、写真①下は白色(写真②右)になっているが、この色によってカテーテルの直径(太さ)を見分けられる様になっている。このカテーテルでは、茶色のハブ側の方が太い。

・ 写真①右の、延長カテーテル末端近くの管に通されている、青色のクリップの様なものは、カテーテルストッパー(写真⑮)で、点滴時は写真①の様に解放状態にし、点滴のない時は、このストッパーを閉じて、カテーテル内の液が漏れない様にしている。

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 次に、各部を詳しく見ていこう。

・ 写真②は、私に使われていたもの、即ち使用済みのものなので、文字はよく読み取れないとは思うが、2叉に分かれた、IVHカテーテルと延長カテーテルを繋ぐハブが白色の方(写真②右)の、透明な管の中央には、[proximal 18GA]と書かれている。

・ ハブが茶色の方(写真②上)の管には[distal 14GA]と印字されている。

・ 目安として、写真②で、先端のブルーチップから青色でハネのあるカテーテルクランプの所までが、体内(の血管内)に挿入されていた部分で、先端のブルーチップの所が、一番心臓に近い所にある、という位置関係になっている。

・ proximalとは近位という意味で、より点滴側に近い位置(皮膚寄りで心臓からは遠い位置)に、点滴の出口の穴(port;ポート)が血管内に空いている事を示す(穴部分の拡大は写真③、⑤)。近位の穴は、カテーテルの側面に空いている。18GAとは白色カテーテル内での管の径を表す(細い)。

・ distalとは遠位という意味で、proximalよりも遠い所、即ち最も心臓寄りに点滴の出口の穴(ポート)が空いている事を示す。写真には写っていないが、ブルーチップの先端部分に穴が空いている。更にこの側面にも、もう一つ穴が空いている(側面の穴部分の拡大は写真④、⑥)。14GAとはカテーテルの径を表し、白色ハブ側の18GAよりも径が太い。ちなみに、この数字が小さくなる程、径は太くなる。

・ 2つ以上の点滴を同時にする時、点滴の内容(種類)によって、カテーテルの太さによる使い分けがあった。抗癌剤(anti-tumor agent)は必ず、太い径の茶色のルートから行われ、赤血球(RBC:red blood cell)や血小板(PLT:platelet)の点滴も太いルートから、そして、骨髄移植(bone marrow transplantation;BMT)の時の骨髄液(bone marrow aspirate)も茶色の太いルートから行われた。

・ 実際に穴(ポート)の形を見ると、側面のポート(出口の穴)の大きさは、必ずしもカテーテル(管)の直径と一致しているとは限らない様だ。写真③~⑥にポート(穴)の拡大写真を載せたが、ブルーチップ先端の穴は写っていないが、遠位では側面に丸い穴(ポート)が空いているのに対し、近位では楕円形のポート(穴)で、遠位と比べてやや大きい。

・ 長い入院中、次第にカテーテルの通りが悪くなる事がままあるが、ナースや先生によると、考えられる原因の一つには、実際にカテーテル内が何かで詰まってきて流れが悪くなったからというもの、そしてもう一つは、特に近位の場合だが、穴(ポート)が側面にある為、カテーテルが血管内壁にぶつかって丁度この穴を塞いでしまっているのではないか、というものであった。後者が原因の場合、患者本人が体や胸、腕等をわざとぐるぐる動かしてみたりすると、急に点滴の流れが良くなるという事があるそうだ。

・ 私に使用された2ルーメンタイプのカテーテルでは、遠位側の穴(ポート)はブルーチップの先端と管の側面の2か所に穴が空いていたが、ネットで見つけた説明書によると、先端に1つだけ穴が空いているタイプもあるらしい。3ルーメンタイプの場合は、遠位の穴(ポート)は先端のみ、近位はここで紹介した近位の穴と同じ位置、そして中間の所(即ち、紹介しているカテーテルの遠位側面にある第二の穴の所)は、3つ目の点滴ルートの穴となる様に作られている様である。

・ お気づきの方もおられると思うが、IVHカテーテル側面のこれら二つの穴は同一線上(同一面上)には無く、近位と遠位の穴は互いに180度反対側の裏面に存在しているので、両方の穴を同時に写真に収める事が出来ない(写真③と④、⑤と⑥)。

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 余談になるが、このIVHカテーテル(CVカテーテル(中心静脈カテーテル:central vein catheter)とも言う)を抜く事になった時、以前、先生から訊いていたIVHの先端構造を実際にこの目で確かめる事が出来るという思いから、担当医に「抜いたIVHを記念に下さい」と言って、本当に貰ってしまった。カテーテルの先は抜いたばかりなので、当然、自分の血で汚れている。個室だったので、自分でせっせとカテーテルの洗浄をしながら、先生から訊いた話では、遠位は先端に穴が空いていると訊いていたが、それ以外にもう一つ、側面にも穴が空いている事等を発見したりしていた。

 カテーテルの洗浄には、以前ナースに頼んで、使用済みの注射器(syringe)を貰っていたので、それを利用してカテーテル内を念入りに洗浄した。この注射器は、ヘパリン(heparin)という、カテーテル内の液を清浄にする(固まらない様にする)為の液を注入する『へパ・フラッシュ(とナースは言っていた)』(点滴のない日には毎日行われた)の時に、毎回使い捨てにされていたもので、どうせ捨てるのならと、使用済みの注射器を貰ったものである。※抗癌剤と違って、へパリンは体に安全なものだったので、貰っても良いと考え、貰った後はすぐに洗浄して取って置いた注射器である。

 しかし、どうしても血液を洗い流せない部分があった。それは、近位(proximal)の穴(ポート)から遠位(distal)迄の部分で、血液が残ったままであった。根気良く洗っているうちに、どうやら、カテーテルの近位は穴の所で終わっているのではなく、その近位の穴から遠位迄が盲管状になっている為、そこに入り込んでしまった血液が洗い流せないのだという事が分かった。量としてはごく少量だろうが、(素人感覚で考えると) 感染(infection)等に気を付けなければならないだろうに、血液が淀んだ部分(即ち盲管部)が存在していいのかと、ちょっと驚きであった(改善出来ないのかとアロー社に言い所だが……)。

 先生が回診(round)に来られた時に、早速、カテーテルにの遠位の穴は2つあった事と、近位側に盲管が存在する事を、洗ったIVHカテーテルを見せながら話してみた。先生は、普段、IVHカテーテルの挿入を行なう事はあっても、カテーテルの先端を間近で見るのは初めてらしく、興味深く眺めておられたのを覚えている。

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 さて、次に、カテーテルを皮膚に縫い付けて止める為の、青色のハネ(カテーテルクランプ)部分を見ていこう(写真⑦、⑧)。

 青いクランプ(clamp)は取り外せて、その下にもう一つ白いクランプがカテーテルを保持している。青クランプと白クランプを2枚重ねた状態で、皮膚に固定する。写真⑦・⑧は青クランプを外し、ひっくり返した様子である。このIVHカテーテルを抜いた時に、自分で洗ったので、クランプの位置は若干ずれているが、だいたいこの写真のクランプの位置から先端迄が、心臓に向けて挿入されていた部分にあたる。

 前回の続きになるが、『IVH挿入マニュアル』を読むと、挿入するカテーテルの長さは、右鎖骨下静脈(subclavian vein)穿刺で13~15cmである。右内頸静脈(internal jugular vein)穿刺では、穿刺(paracentesis;puncture)する部位により異なり、胸鎖乳突筋(sternocleidomastoid)前縁中央からのアプローチで13~15cm、小鎖骨上窩の頂点からで11~13cmを指標とするらしい。また、大腿静脈(femoral vein;venae femoralis)からのカテーテル挿入の場合、成人で40~50cm位だとか。。。

 挿入した長さが分かる様に、カテーテルにはメモリが打ってあり、先端のブルーチップから初めにある黒の一本線の所迄が10cm、白色クランプあたりの[15]と刻印されている所が、15cmの長さ、15cm以降は4つ黒い点があるが、この間隔は1cm、茶色のジャンクションクランプ手前の黒二重線迄で20cmとなっている(写真⑧)。

 参考までに、私のカテーテル挿入状態(写真⑨)も載せておく。白カテーテルにある二重線や、黒の点のある位置から見ると、胸の中に挿入されたIVHカテーテルの長さは15cm位になっているのが分かる。一度、挿入時のレントゲン写真(an X-ray (photograph)を見せて貰った事があるが、右鎖骨下から英語大文字の「 J 」を丁度逆さにした様な形で、心臓のすぐそばまで挿入されていたのを覚えている。

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 また話を脱線するが、この写真⑨は、入院中、IVHカテーテルを抜く時に、一度だけ長姉が居合わせた事があり、その時にこの記録を残そうと、急に思い立ち、姉にカメラで撮影してと頼んだ時のものだ。あいにくこの日カメラを持ってきていなかった姉は、「うわぁ~~、怖い……」と言いつつ、携帯電話のカメラで撮影してくれた。

 この写真⑨では、右鎖骨下を撮影しており、私は仰向けで寝ている。頭部は写真の左斜め上の方、少々右肩(写真で言うと左側が右肩にあたる)が斜め下位の角度で写っている。チェック柄の布はその時着ていたYシャツで、右肩が隠れている感じである。この病院では、イソジン(Isodine)を消毒液としても使用している為、挿入口を中心に、消毒(disinfection)した所が茶色くなっている。普段はこの消毒後、すぐに、清浄で大きく四角いガーゼで、挿入部(ブルークランプ部分)・茶色のジャンクションクランプ部分全体を覆い、テープで止めていたので(要するに外気に直接触れない様に、ばい菌が入らない様にしている)、自分でもゆっくりと見た事は無かった。

 撮影日を見ると、母が亡くなってすぐの日付である。その1ケ月半位前の外出・外泊許可で帰宅した時、母の異変に気付き(詳しくは「生亜紫路2006」の『2006-07-21 (金) 外出、母の異変』)、入院して検査して貰った結果、誰もが想定だにしなかった末期の癌が母の体に発見されたのだった。母はホスピスに転院し、治療中で身動きの取れない私は、化学療法(chemotherapy)のクール(Kur)を終えて、やっと貰えた外泊許可(exeat;overnight)で、無理して、臨終が近かった母に最期のお別れをする為に会いに行き、その後ひどい肺炎(pneumonia)を起こした頃のものである。肺炎を起こした決定的な原因が分からないまま、抗生剤(antibiotic)の治療が続けられ、その間に母は天に召され、私は肺炎等の更なる悪化を防ぐ為にと、念の為にIVHカテーテルを抜く事になった日付である。写真を見る限り、カテーテルを止めていた痕等が、ブルークランプのまわりに見られる事より、2度目のカテーテル挿入の状態であろう。

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 話を戻すが、今度は、カテーテルと点滴をつなぐ延長カテーテルについて、みていこう。全体像を写した写真①に見られるIVHコネクタ(延長カテーテル)については、『生亜紫路2006』の『2006-07-11 (火) Aコース(3回目) 07日目 キロサイドのルンバール』にも少し説明しているので、それを参照して貰うとして、ここでは、もう一つ、違うタイプの延長カテーテルを紹介しよう(写真⑩)。

 私に付けられていたカテーテルは2ルーメンのものであったが、点滴を同時に3種類以上しなければならない時はどうするのだろうか、3ルーメンとか4ルーメンのカテーテルに挿入し直すのだろうか!? 三方活栓を利用するという方法もあるかもしれないが、私の場合は写真⑩の様な“延長カテーテル”を更に継ぎ足して貰っていた。

 詳しく見ていこう。 まず、写真⑩の水色端側(写真中央右下;ここではメイン・コネクタと名付ける事にする)は点滴に繋ぐ面(コネクタ面)で、写真①の右半分にあるのと同じ形状をしている。写真①と違って、写真⑩の延長カテーテルには、この水色の繋ぐ面(コネクタ面)と同じ形のものが、カテーテルの中央にもある(ここではサブ・コネクタと名付ける事にする)。これによって、1つしかコネクタ面がなかった1本のルートを、2種類同時点滴可能なカテーテルに変える事が出来る。但し、メイン・サブの両方のコネクタを同時に使う時は、点滴する2種類の液が互いに混じりあっても大丈夫なものを選ばなければならない。そして、同時に点滴された液は混合した状態でIVHカテーテルへと流れていく事になる。

 写真⑩の左下、水色のコネクタ面とは反対側の端末は、透明な繋ぎ部(写真⑪左)となっているが、この形状は、水色のコネクタ面と繋げる様になっている(写真⑪、⑫)。点滴を繋ぐ時も、点滴からの管の先端はこの透明な部分と同じ形状をしていた様に思う。

 延長カテーテル水色のコネクタ面(写真⑪右)で、カテーテルと接続する部分は、中央の白っぽく丸い所で、見え難いかもしれないが、縦一本に切れ目が入っている。この状態ではカテーテル内の液は漏れない構造になっており、そこに写真⑪左の透明部分と同じ形状のコネクタを押し込むと、管が一本に繋がり(写真⑫)、点滴が開始出来る。そして両方のコネクタが外れない様に、押し込んだ後は少し回してカチッと止める様になっていた。

 時々、どちらかのコネクタの不具合から、点滴の液が漏れていた事があったが、漏れを見つけたら直ぐにナースに連絡を取って報告したものだった。点滴によっては、特に抗癌剤等だったら、皮膚に触れると炎症(inflammation)を起こしたりする事等があるからである。

 この水色の点滴口(コネクタ面)は、点滴に使用するほか、何か注射が必要になった場合も、わざわざ注射針を腕に刺す事なく、先生方はここから注入していた。水色コネクタ中央の切れ目に注射器の先端を押し込むと、液漏れする事なく先端だけ管の中に突っ込む事が出来、引き抜くと、元通りに閉じる。急な発熱(pyrexia、fever)等で緊急採血(血液培養)が必要になった時は、腕と、ここ(IVHルート)からの計2か所の採血があった。入院中に貰って来た注射器を使って、そのイメージ写真を、写真⑬、⑭に載せておく。写真中の注射器の近くに、白いものを置いてあるが、これはへパリン液の入った注射器の蓋で、入院後半からこのキャップはねじ込み方式にデザインが変更されていた。

 参考迄に、写真⑨でIVHを抜かれたのは、IVHの先端(出口)付近で、何らかの原因で菌が繁殖する事もあり、そうなるとIVH自体が菌の繁殖源になるので、その危険性も避ける為にと抜いてみる事になったのだった。そして、そのIVHの先端は、血液培養の検査に回された(抜いたばかりで血だらけのIVHの先端をハサミで切って、検査用容器に回収していた)のだが、結局、そこから菌は検出されなかったと数日後教えて貰った。抜いて検査しなければ結果が分からない事は理解してはいたが、何も菌が検出されなかったのに抜いてしまったので、またカテーテル挿入をして貰わなければならなくなった事に、内心ため息が出たものだった。血液培養について詳しく知りたい方は、『2008/05/03 (祝) 血液培養について』をご参照頂きたい。

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 最後に、写真①や⑪で、水色コネクタの近くの管に、青いものが写っているが、これはカテーテルのストッパーである(写真⑮)。カテーテルの太さによって、大・小あり、色違いの白いのもあった(写真⑮)。写真では白色のものは一部私が緑色のペンで色を塗ってしまっているが、本当なら真白である。点滴に繋いだりしない限り、水色のコネクタから内部の液は漏れてはこないが、普段点滴のない時は、安全の為、更にこのストッパーで管を挟んで止める様になっている。

 カテーテルはこのストッパーの長軸方向の穴に通っており、丁度私が緑で色を付けた部分を両方から指で挟むと、パチッとかみ合い、その間を通っているカテーテルの管は押しつぶされる形になるので、内部の液の動きを止めるというものだ。

 点滴液を、手動で落下(点滴)させる時等は、このストッパーで取り敢えず中止する事が出来るが、装置を使い機械的に点滴液を押し流す場合、たまにナースがこのストッパーを外し忘れる事があった。装置を使って機械的に点滴を流すと、ストッパーを止めた状態でもちゃんと流れてしまうので、ナースもストッパーを外し忘れた事に気が付かない(要するに解除し忘れる)事がある様だ。

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 参考までに、普段点滴のない時、このIVHカテーテルは水色末端(繋ぎ口)が雑菌等に触れない様に、水色のコネクタ部分をカーゼでくるんでゴムで止めている。胸から出たカテーテルの末端はガーゼにくるまれゴロゴロしていて、ぶら下げるととても嫌な重みが挿入口にかかってくる。そこで、入院中はTシャツではなく、胸ポケット付きの前開きのパジャマかYシャツを着て、ガーゼでくるんだカテーテル末端は胸ポケットに入れていた。

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 長くなってしまったが、以上、こんな感じである。

 その他、IVHにまつわるトラブルや体験談等、入院中の出来事を知りたい方は、『生亜紫路2006』の右サイドにある【ラベル:IVH】をクリックされると、色々と出てくるので、ご参照下さい。


尚、今回は、これと同じ記事を、退院後の通院記録他、現在進行形のもう一つのブログ『生亜紫路』にも載せている。